『男装の麗人 川島芳子伝』(上坂冬子)を読む。 この本はどうやら絶版らしい。 清王朝の末裔、川島芳子の実像を伝えるノン・フィクションだ。 黒木メイサのドラマを観て、川島芳子についてほとんど知らなかったことに気づいた。 スパイというにはあまりにも悲劇的な一生が哀しすぎて、どうにも興味がもてなかった。 それに川島の男装姿は、わたしにはあまり似合っているとは思えない。 宝塚の男役なら似合いそうな軍服姿ではあるが、彼女はあまりにもフェミニンで小柄すぎる。。。 ドラマで中村雅俊が演じた小説家は、村松友視の祖父「村松梢風」であることを確認。 村松梢風は実際に二ヶ月、川島芳子の部屋に同居していたそうだ。 ちなみにこの家は、芳子の愛人、陸軍情報将校(当時少佐、のち少将)田中隆吉との愛人宅だった。 梢風にフィクションの川島芳子伝を描くことを持ちかけたのは、この田中少佐。 この田中に協力して川島芳子が上海事変のきっかけとなる工作をしたのは確からしいが、それ以外のスパイ活動は噂話にすぎないという見方が多数派だ。 日中の要人との男性遍歴は間違いないが、華麗なるスパイという印象は、陸軍から見捨てられてから、生活のためにマスコミに売り込んだ虚像でもある。 虚言癖があり演技性人格障害の可能性もある川島芳子は、利用価値のないゴミ同然に大陸から軍の力で放逐されたのち、当時の日本マスコミに自分を売り込んで生活していた。 同時に、起業をネタに数々の詐欺事件を起こしていた男ともつきあって、贅沢三昧な暮らしをしていた。 彼女を詳しく知る人々からは、どこか壊れた可哀想な女という印象をもたれていたと、上坂の上掲書はいう。 芳子は戦後、大陸で「漢奸」として処刑されたが、当時から替え玉処刑説が流れていた。つい先月(11月)も、1978年まで生きていたという証言者が現れた。 http://www.jiji.com/jc/zc?k=200811/2008111500254 金の延べ棒で身代わりというのが、時代を感じさせる。 実は生存説は上坂の書籍にもあり、こちらも代償として金の延べ棒10本を約束されたが、4本しかもらえなかったので、身代わり女性の遺族が新聞に投書した。 代償と未払いの部分が今回の話と同じ。 なんだか、うそくさいが、中国では調査が行われるらしい。 なぜ自分は川島芳子に惹かれたのだろう? 本を読み終えて、自問した。 「家あれども帰り得ず 涙あれども語り得ず」 これが川島芳子の自作の詩だ。 彼女は結局、この世で自分の居場所を見つけることがひどく難しかった。 だから同じような人種であるわたしには、とても懐かしく思える。 清朝の親王家に生まれようと、義父に強姦されて男装しようと、そんなことは枝葉のことで、生まれつき、芳子にはこの世を生きるのがひどくつらい性質があったのだ。 きっとそんな生まれつきの男女がこの世にある限り、川島芳子の伝説は消えることはないだろう。 |
今月は、本も読めないし、語学も勉強できない。 集中することが難しい。 なんとかせねば。 以下は読みかけの本。 読了できるかどうかはかなり微妙な感じだ。 『ウォーリス・バッジ伝』(酒井傳録) 『神様』(川上弘美) 『信長あるいは戴冠せるアンドロギュノス』(宇月原晴明) 『Wicked: The Life and Times of the Wicked Witch of the West』(Gregory Maguire) 宇月原の『信長〜』は時代小説というより、FT大賞にふさわしい怪作。 詩人のアルトー(『ヘリオガバルスまたは戴冠せるアナーキスト』の作者)と信長をリンクさせる試みはおもしろいが、構成とストーリーがどうにも納得できない。 あっさり降参して投げ出した。 川上弘美の『神様』は、おもしろかった。 アパートに越してきた「くま」(話ができるけれど、動物!)と、語り手の女性との交友。 どこか古風な恋愛(?)っぽくて、いい感じだ。 意外な発見だった。 この人の作品はもう少し読んでみたい。 あとの本はまだ斜め読みの段階。 いずれきっちり片をつけたいものだ。 |
© 工藤龍大